タイムカプセル - 25

 二人が戻って来たのは、日が明けた12時半だった。

 二人とも、もう絶好調の様子だった。

 私たちはリビングで、テレビの深夜番組を見ていた。

 父がリビングに来ると、みんなに言った。

「みんな、集合!」

 は? 何事かと思いながら、父を見る。

「みんな、清水家の主から話がある。ソファに集まるんだ。」

 酔っ払いに付き合ってらんない、何なのよ、と思いながら、とりあえず言われた通りにする私たち。

 長いソファに私たち3人、反対側に父と剛が座った。

「お父さんは、剛君と亜沙美の結婚を認める。剛君は今日からうちの家族だ。異議は認めない。いいな。」

 父は最後のところでちょっと強い口調になって言った。

「分かったら、返事しなさい。」

「はい。」

「はい。」

「お父さん、ありがとう。」

「ありがとうございます。」

「剛君、今夜はうちに泊まって行きなさい。お母さん、剛君の布団の用意をしてあげろ。亜沙美と同じ部屋でいい。」

「で、でもお父さん。まだ結婚前なのに・・・。」

 母が躊躇していた。

「ばーか。いいじゃないか。もう結婚するって決まったんだから。剛君、亜沙美に何しても構わんぞー。父親の俺が許す。」

「ば、ばか。お父さん、何言ってんのよ。」

「お父さん、じゃあ、そうさせてもらいます。」

「もう、剛までえ。」

「おー、頑張れ。早く孫の顔を見せてくれー。ただ、近所迷惑にならん程度にな。」

 何なの、この男の会話は。もう、信じらんない。

 12時を回ったこの日、もう私の誕生日になっていた。剛からのプロポーズは一日早くなってしまったけれど、記念すべき誕生日になった。幸せだった。

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タイムカプセル - 24

 3人で作った豪華夕食を、5人で食べた。

 四角いテーブルに、いつもなら私と奈津美がこっち、そして両親が向こう側に座るのに、今夜は、剛と私が並んで座り、母と奈津美が向こう側、父は一人でお誕生日席に座った。こんな、普段とは違う雰囲気が、剛の存在をより浮き立たせる気がした。

 5時からずっと飲み続けている剛と父は、7時を過ぎて夕食の時間になると、もうかなり良い調子になっていた。

 剛が飲める人で良かったと思った。父は昔からよく言っていたのだ。私や奈津美が結婚して父に義理の息子ができたら、一緒に飲みたいと。女性陣の私たちも飲めるけれど、やっぱり男同士でと言うのが良いらしい。本当は息子の一人でも欲しかったようだけど、申し訳ないけれど、私たちは二人とも女の子だった。まだ剛は義理の息子になった訳ではないけれど、それでも父のこの雰囲気は、もうそれを楽しんでいるように思えた。

 そして、案の定、食事が済むと、

「よし。剛君、もう少し飲みに行くか。」

 と、父が剛を誘った。

 時間はまだ9時だ。土曜日だし、明日も休みとなると、確かにもっとゆっくり飲める時間ではある。

「え〜、私やだよ。このままうちで飲めばいいじゃん。」

 私はもう動きたくない気分になっていた。それに、これからアパートに戻らないと行けないと言うのもあった。

 そうすると、父が、

「おまえには聞いとらん。剛君に聞いとるんだ。」

 と言った。

「な、剛君。男同士で飲みに行こう。」

「は、はい。是非。」

 何? そういうことだったの? 私は必要ないんだ・・・。何だか不思議な感じがした。

 結局、父と剛は二人で何処かに飲みに行った。

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タイムカプセル - 23

「お姉ちゃん、すごいじゃない。びっくりしたよ。急に、彼氏連れてくるなんて。」

「うん。私もこの展開にはちょっと驚いてる。」

「私のせい?」

 母が言った。

「お母さんのせいというか、何というか。ただ、今回こうなるとは思ってなかったかな・・・。」

「お母さんだってびっくりしたのよ。亜沙美の部屋に、いきなり知らない男が裸でいるんだもの。」

「ほんとなの? お姉ちゃん?」

「裸って、上半身だけでしょ? 大げさだよ。もう。」

「でも、お母さんも安心したわ。剛君、良い人じゃない。」

「うん。私も高感度抜群だと思った。」

 奈津美も言った。

「ほんと? ありがとう。そう言われると、私も嬉しい。」

 良かった。とりあえず、みんな剛のことを気に入ってくれたらしい。あれだけ盛り上がっているから、父だってきっとまんざらでもないはずだ。

「お姉ちゃん、剛君と結婚すんの?」

 と、奈津美が聞いた。

 そう聞かれても、まだ何と返事したらいいのか分からなかった。この段階では、まだ両親の承諾を得たとは言えないはずだ。もうちょっとだと思うけれど、まだだ。そう悩んでいると、いきなり隣で奈津美が叫んだ。

「お、お姉ちゃん。これー。」

 そう言って、私の左手を取った。まじまじと指輪を見ている。

「これって、婚約指輪なの?」

 奈津美が聞いた。

 母もその声に驚いた様子で、奈津美が持ち上げている私の手を見ていた。

「うん。今朝、もらったの。」

「す、すごーい。ダイヤ、かなり大きいよ。」

 奈津美は一人で興奮していた。

「もう、お返事したの?」

 母が聞いた。

「うん。」

「そう・・・。」

 母がしんみりと言った。

 気が付くと、母が泣いていた。それにつられて、私も泣いた。奈津美までが泣いていた。女3人、キッチンで夕食の支度をしながらひとしきり泣いた。

「亜沙美、おめでとう。」

 母が、キャベツを切りながら、私のことなど見ることもなく、キャベツに向かって言った。

「お姉ちゃん、おめでとう。」

 奈津美も同じように、鍋の中のジャガイモに向かって言った。

「ありがとう。」

 私は、剛にもらった指輪を見ながら言った。

 この家は、男1人女3人だから、いつも私たち3人が中心になって全てが回っていた。私たちはまるで姉妹のようにいつも一緒だった。私が東京の大学に行くことになって、その形が崩れたけれど、やっぱり私たち3人はこうやって一緒にいるのがしっくりくる。母や奈津美の気持ちが、痛いように分かった。

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タイムカプセル - 22

 母がキッチンに立ち、お茶の準備でもしてくれているようだった。

「私は亜沙美の父親の清水恭助です。仕事は二菱自動車販売会社の営業所長をしています。どうぞよろしく。」

「え、そうなんですか? 僕の父も東京の二菱自動車販売会社に勤務しているんですよ。」

「お、そうなのかい。そりゃあ、奇遇だなあ。」

 そうなんだと思った。剛の家族のことなど、私はまだよく知らなかった。男兄弟3人の真ん中だとは聞いたことがあったけれど。

「二菱の車は、やっぱりあのバケットシートがいいですよね。」

「お、剛君。なかなか分かるね。そうなんだよ。あれは他社にはない二菱だけの技術だからね。やっぱりあれくらい硬いシートじゃないと、高速には耐えられないからねえ。」

「そう、そうなんです。普段はそんなに感じなくても、高速に乗った時のあとシートの安定感は二菱だけですよね。」

「だから、F1でも二菱はなかなかいい成績を出してるんだよ。軽くて硬い、その素材を開発した技術は世界に誇れるものだよ。」

 父と剛が私には訳の分からない話で盛り上がっていた。

 そこに母がお茶とお菓子を持って戻って来た。

「さあ、どうぞ、お召し上がり下さい。」

「はい。おりがとうございます。」

 返事をする剛。

 する、それを遮るように父が言った。

「葉子、何やってるんだ。酒にしろ。ビールとおつまみを出さんか。なあ、剛君もいける口なんだろ?」

「え、ええ。」

「ほらみろ。子どもじゃあるまいし、客が来たらまず酒だ。早くしろ。」

「はい、はい。」

 母は素直にキッチンに戻って行った。何だか母に申し訳なかった。

 お酒とおつまみが運ばれて来ると、宴会が始まった。母も妹も飲める方なので、5人でまだ明るい内から飲み始めた。

 母と私は30分くらいしたらキッチンに立ち、夕食の準備を始めた。しばらくすると奈津美も来て、手伝い始めた。父と剛がまた車の話で盛り上がり始め、付いていけなくなったらしい。

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タイムカプセル - 21

 母が来たその日の夜に、剛が私の実家に挨拶に行くことになった。剛の存在を知った父が、早い方がいいと言ったらしく、その日の夕食をうちの実家でみんなで取ることになったのだ。

 着る物がないと剛が言い出して、わざわざ浜ノ町アーケードまで行き、紺のスラックスとクリーム色のシャツを買った。紳士服売り場で剛と一緒に彼の服を選ぶ、そんなことが何だかとても幸せだと思った。

 約束はかなり早い5時だった。

 ちょっと緊張気味の剛を、実家に案内した。

 実家は2年前に引っ越したばかりの新築マンションの中の一軒で、一応長崎の田園調布と言われている平野町の一角にあった。

「ただいまー。」

「おじゃましまーす。」

「いらっしゃい。」

 父が玄関で出迎えてくれた。

「父よ。」

「は、初めまして。桑戸剛です。よろしくお願いします。」

「亜沙美の父親です。まあどうぞ、汚い所ですけど、上がって下さい。」

 父がそう言い、みんなでビングルームに行った。

 リビングルームはいつになく綺麗に掃除されていた。テーブルの真ん中に低いフラワーアレンジメントまであって、母が気合いを入れている証拠だと思った。ベランダに向かって開けた窓の向こうに、鮮やかな緑の稲佐山が見えた。

 リビングルームには妹の奈津美がいた。

 そして、キッチンからすぐに母も出て来た。

「こっちは妹の奈津美。来年大学卒業よ。うまくいけばの話だけど。」

「お姉ちゃん、もう、何言うのよ、いきなり。奈津美です。よろしくお願いします。」

 奈津美が剛におじぎした。

「桑戸剛です。よろしくお願いします。」

 剛もおじぎをする。

「そして、こっちが今朝会ったけど、母ね。」

「今朝方は失礼しました。桑戸剛です。よろしくお願いします。」

「あ、はい。亜沙美の母親の清水葉子です。こちらこそよろしく。今朝はごめんなさいね。何の心の準備もしてなかったから、びっくりしちゃって・・・。」

「いえ、こちらこそ。ご挨拶が遅くなってすみませんでした。」

「まあ立ち話も何だから、座って下さい。」

 父が言った。

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タイムカプセル - 20

 剛がなにやらごそごそし始めたかと思うと、バッグの中から何かを取り出した。

  そして私に、

 「亜美さん、これ。明日の誕生日に渡すつもりだったけど、明日じゃ間に合わないかも知れないから、今日受け取ってほしい。」

  と言って、白い小さな紙袋を差し出した。

 「誕生日のプレゼントだったら、明日でいいわよ。」

  と私は言ったが、

 「いいから、早い方がいいから。今、受け取ってほしいんだ。」

  と彼が言った。

 「どうして?」

 「いいから、開けてみて。」

  紙袋の中には、白いラッピングペーパーで綺麗に包装された、白いリボンのかかった小箱が入っていた。箱を取り出して、言われるがままにリボンを解いた。中の白い箱を開けると、その中にまた白いビロード地の小箱が入っていた。この小箱を手に取って蓋を開ける。中には、立て爪のダイヤのリングが入っていた。

 「こ、これ・・・。」

  剛の顔を見る。

 開けている途中で、まさかとは思っていたけれど、本当にそのまさかだった。

「俺、まじで亜美さんと結婚を前提にしたいと思ってる。だから、これ、受け取ってほしいんだ。」

「剛君・・・。」

 ダイアのリングと剛の顔を交互に見た。

「一応、宝石鑑定書もあるんだよ。安物のおもちゃじゃないからね。ほら。」

 そう言って、鑑定書を見せてくれた。

 プラティナの土台に1.5カラットのダイアモンド。隆一がくれたあの安物のリングのことを知っているから、そんなんじゃないってことを剛は言いたかったのだろう。

 びっくりしていた。

 付き合い始めてまだ2か月だ。それに、その内遠距離が殆どだった。会えない分、剛への気持ちが日に日に募って、もう彼なしには考えられないようにもなっていた。しかし、まさか今回、こんなことは期待していなかった。久しぶりに会えるだけで、それだけで幸せだと思っていた。

「すぐじゃなくてもいいよ。来年でも再来年でも亜美さんが好きな時まで待つから、いつか俺と結婚してほしい。」

 感激だった。

 プロポーズされたのは生まれて初めてだった。

「剛君・・・。」

 涙がぼろぼろとこぼれた。

「これ、受け取ってくれるよね。」

 彼がリングを取り出した。朝の光にダイヤがキラキラと輝いていた。

「うん。」

 そう返事すると、彼が私の左手の薬指にリングを付けてくれた。少し大きかったけれど、幸せだと思った。

「これで、亜美さんは俺のものだー。」

 彼はそういうと私を抱きしめた。

 感激のあまり、私は彼の胸で子どもみたいに号泣した。自分がまだパジャマのままだと言うことに、今さらながら気が付いた。

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タイムカプセル - 19

「あなた、夕べここに泊まったんでしょ?」

 母が剛を見て言った。

「はい。」

「はいって。あなたどういうつもりなの? 亜沙美はまだ結婚前なのよ。はしたない。」

 今時そんな・・・と思ったが、母の時代はそうなのだ。仕方ない。

「すみません。でも、僕は亜沙美さんとは結婚を前提として、お付き合いしたいと思っています。」

 え? 剛? 何? ほんとなの? 私だってまだ何も聞いたことないわよ、そんなこと。

「結婚を前提って・・・。そうなの、亜沙美?」

 母が私のことを見た。

 どう返事したらいいのよ? と思いながら、

「え、まあ。」

 と、とりあえず曖昧に返事した。ここでまだ聞いていないとは言えないし、それはそれで嬉しいけれど、あまりにもいきなりの進展ぶりに、何が何なのかよく理解できずにいた。私はとても混乱していた。

「結婚を前提というのは、親の承諾を得てからの話でしょ? 私もお父さんもまだ何も聞いてないわよ。順番が違うんじゃないの?」

 母がきつい顔をして剛を睨んだ。剛、ごめんね、こんなことになって・・・。隆一の時といい今回といい、どうして剛はいつもこんなことになるんだろう。何だか、彼に申し訳なかった。

「申し訳ありません。」

 剛が神妙に言った。

「あなたいつまで長崎にいるの?」

「月曜日には東京に戻ります。」

「じゃあ、今日か明日にでもうちのお父さんに会ってちょうだい。お父さんが認めない限り、私だって認めませんからね。こんなこと・・・。分かったわね。」

「はい。」

 剛が返事した。

「亜沙美も分かったわね。」

「うん。」

「じゃあ、私、帰るわ。」

 母は一人でがーっとしゃべって、言いたいことだけ言うと出て言った。ずいぶん怒っている感じだった。確かに母の性格だったら、こんなこと許せないのかも知れない。しかし、自分の娘の彼氏なんだから、もうちょっと優しく扱ってよという感じだ。

 母が出て行った後、私たち二人はしばらく放心状態でぼ〜っとなっていた。

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タイムカプセル - 18

 母は玄関を上がり、小さなキッチンを通り過ぎ、キッチンとリビング兼寝室の間にあるガラスドアをいきなり開けた。そこには、まだ着替え中の剛がいた。ジーンズは履いているものの、シャツを探しているところで、上半身はまだ裸だった。

 これが母と剛の出会いになってしまった。

 やばい。最悪。そう思ったけれど、もう遅かった。

「あなた誰なの?」

 母が言った。

「大学のサークルの後輩よ。」

 私が言った。

「そんなことを聞いているんじゃないわ。あなた誰なのよ?」

「桑戸剛と言います。亜沙美さんとお付き合いさせてもらっています。」

「お付き合いって・・・。」

 母が絶句しながら、部屋を眺めていた。

 一つだけ敷かれている布団。部屋が狭いので、リビング兼寝室にしていて、いつも布団を使っていた。ベッドを使うとその分狭くなるので、ベッドは使わないことにしていた。畳の上には、さっきまで二人で寝ていてくしゃくしゃになった布団が一式だけあって、ここに一緒に寝ていたと言うのが露骨に分かった。私だってまだパジャマのままだ。

「いいから、お母さん、とりあえず座って。」

 私は布団の一部を折り曲げて、母が座るスペースを作った。そして、剛のシャツを探し出し、彼に無言で渡した。彼は慌ててシャツを着て、自分も畳の上に正座した。

 布団を押し入れに仕舞うと、ローテーブルを部屋の真ん中に置いて、部屋の雰囲気は一気に寝室からリビングルームになった。そして、私も剛の横に座った。

「剛はね、大学の海外旅行サークルの一つ後輩なの。東京にいた時から付き合ってたのよ。今回、長崎に遊びに来てくれたのよ。黙っててごめん。」

 私は母に説明した。

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タイムカプセル - 17

 剛と再会できたのはゴールデンウィークだった。

 3月末に東京で始まって、急激に発展してそのまま遠距離になり、それから1か月。今回、剛が長崎まで来てくれたのだ。この1か月が本当に長くて、剛が長崎に来ると決まって以来、私は本当に首を長くして待っていた。

 金曜日、仕事が終わってそのまま最終の飛行機で剛がやって来た。

 長崎での再会ム思いもよらない、ちょっと不思議な感じで、私は始終ドキドキしていた。

 その翌日の土曜の朝だった。

 朝8時半にアパートのドアベルが、ピンポーンと甲高くなった。

 誰? こんなに朝早くに。そう思ってパジャマのまま玄関に行った。ドアの覘き穴から見ると、そこに何と母が立っていた。どうして、いきなり。実家は職場から少し距離があって、私は一人暮らしだった。普段、私が実家に帰ることはあっても、家族がここに来たことはまだなかった。剛がいることもあって、びっくりしていた。どうしよう?

 まだ布団の中で寝入っている剛を起こす。

「剛、起きて。」

「ん〜。」

「剛、起きて。お母さんが来ちゃった。」

「え?」

 ガバッと起きる剛。相変わらずうらやましいくらいに寝起きが良い。

「お母さんがドアの前に来てるの。どうしよう?」

「どうしようって・・・。」

 と相談している間に、外ではどんどんとドアを叩きながら、

「亜沙美〜、いるの〜? お母さんよ。」

 と母が叫んでいた。

 剛が布団から飛び起きて、服を着始めた。

 母を待たせる訳にも行かず、私は玄関に行ってドアを開けた。

「亜沙美いたの? いないのかと思ったわ。いるんなら待たせないでよ。」

「ごめん。」

 目ざとい母は、すぐに玄関にある剛の靴に気付いたようだった。

「誰かいるの?」

 と、咄嗟に聞かれる。

「うん。友達が来てる。」

 そうとしか言えなかった。

「あがらせてもらうわよ。」

 母はそう言うと、私を無視して部屋に入った。

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タイムカプセル - 16

 翌週末、私は予定通り長崎に引っ越し、4月から長崎支社で仕事を始めていた。

 剛には羽田以来会っていない。

 羽田空港で見送ってくれた剛と別れるのが辛くて、彼が呆れるほど、私は子どもみたいにびーびー泣いた。泣くと余計辛くなって、悪循環だった。ぎりぎりまで中に入らない私を見兼ねて、結局、剛の方が帰って行った。自分がいなくなれば、仕方なく行くだろうと思ったらしい。確かにそうしたけれど、帰るふりをして実は彼は隠れてずっと私を見送っていてくれていたらしい。剛も辛かったらしい。

 ここは地元でもあるし、勝手知ったる町だ。

 ただ、折角、剛と付き合い始めたのに、二週間もしない内にいきなり遠距離になるとは、何と言う運命の巡り合わせなんだろう。

 次に剛と会えるのはいつになるのか、まだ分からなかった。

 それでも、毎日のように電話やメールで連絡しあって色んな話をした。

 メールはまだ良かった。少しは自分が冷静になれた。しかし、剛の声を聞いてしまうと駄目だった。会いたくてしょうがなくなる。最後はいつも泣きべそをかき、なかなか電話を切れなくなった。剛は、私がもっと強いと思っていたらしくて、最初はびっくりしていた。  こんなに剛のことを好きになって大丈夫なんだろうかと、自分自身に対してちょっと不安な気持ちが出て来るほどだった。

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